私思累々

映像業界から抜け出せないみそじ

人物に興味のない男「ダンケルク」クリストファー・ノーラン監督

退屈だった。


三つの時間の流れが、ブツ切れに並行して描かれる。戦場を疑似体感させたいと謳っているわりには、違うベクトルの情動をカットバックされても乗れない。観たいと一瞬思っても、全く別件(後から繋がるとかどうでもいい。観てるのは今だから)を見せられて毎回こっちは立て直さなければならない。もちろんそれぞれが抱えている問題(やろうとしていること)はわかる。でも、人物の行動は見せるけど、人物そのものはさながらハリボテのように徹底して裏のまま(描かない)。いつも通りのノーラン。人物に興味がなさ過ぎる。


ノーラン映画は「ダークナイト」以降、手放しで褒められる傾向にある。次作「ダークナイト・ライジング」が破綻しまくった物語にも関わらず、絶賛評が吹き荒れた。確かにルックは素晴らしいけど、登場人物はどいつもこいつも微塵も面白い人間じゃない。迂闊で思慮深さがなく馬鹿に見えて、ノーランの都合で物語を運びやすくするために作られたコマでしかないから、人間らしさもなく、興味が持てない。


本作に関してもあらゆる点において首を傾げずにいられない。
上記したように時勢がズレている上に、情動がぶつ切れでクライマック(構造的にはクライマックスですらない)で収束するにしてもそれらが別件すぎる。船の上の少年の押されて頭打って死ぬって件、何なの?さらにその少年に関しては、想いをしゃべって説明して新聞に載せるって、それで感動しろって?「30万人を救ったんだ」っていうキモをセリフで説明して終わりってなんだ?CGを使わないことにこだわり過ぎて大事なそのワンカットがない。一事が万事で大事なことはいつだってセリフで済ませてしまうのがノーランだ。情動は省略してセリフで済ませる。そんなのおもしろいわけがない。


民間の舟と戦闘機のトム・ハーディさんの時勢はどう考えてもサブプロットでしかないので、いらない。メインプロットの彼にピッタリくっついて描いたほうが物語としては整理されていて少なくとも現状よりは乗れていたと思う。


画は確かにすごい。全て実写なのも立派だと思う。でもそれ自体は面白くもなんともない。ぼくが観たかったのは映画で、人間の姿。



たとえばスピルバーグ先生の「宇宙戦争」のような。
力で世界や人々を支配してきたアメリカが、宇宙人(外部から来た者)の力によって支配される。駄目な父親トム・クルーズと同じ目高で体感し、守るべき一人娘を命がけで守る姿を通して、搾取や武力(戦争)の恐怖を疑似体験する。
トム・クルーズの変化し成長していく情動があることで恐怖は一層強く、緊張感は膨らみ、めまぐるしいアクション描写も素晴らしく興奮できる。そんな初歩的なことはノーランだってわかっているだろうが、それを描いたら(尺的に?構成的に?)俺の描きたいルックは描けねえ!っていうのがきっとノーランの想いなんだろうなと、観ながら考えてた。


そういう意固地なロマンチスト映画バカなのが、ノーランなんだと思う。少しは他人に興味持ってよ。